東京高等裁判所 昭和59年(ネ)343号 判決 1986年12月25日
控訴人 石原照子
右訴訟代理人弁護士 吉田健
被控訴人 荻野キクこと 荻野きく
右訴訟代理人弁護士 内田宏
主文
本件は昭和六〇年四月一八日の経過により控訴を取り下げたものとみなされ終了した。
控訴人の昭和六一年七月七日付口頭弁論期日指定申立書による期日指定申立て以後に生じた訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、主文第二項掲記の申立書により口頭弁論期日の指定を申し立て、その理由を次のとおり述べた。
本件については、昭和六〇年一月一八日の第七回準備手続期日に控訴人が出頭せず、いわゆる休止となり、同年四月一八日の経過により控訴の取下げとみなされた扱いになっている。
しかし、控訴人に対する右期日の呼出状は、裁判所書記官がまず郵便により控訴人の肩書住所地に宛てて特別送達として差し出したものが控訴人不在のため不送達となったのち、あらためて民事訴訟法一七二条に定める書留郵便に付する送達の方法により送達を行ったものであるが、この送達は以下に述べる理由により違法である。
すなわち、控訴人は本件訴訟の前から健康を害していて、訴訟が控訴審に移ってからも病院への入院あるいは通院をくりかえしていたが、その間も裁判所や被控訴代理人弁護士とは訴訟の進行に関して再三連絡をとっていたので、裁判所も控訴人の病気の状況を十分知悉していた。控訴人は昭和五九年一〇月後半から六〇年一月前半にかけて九州に転地療養をしたが、養女の木村めり子が控訴人の肩書住所地の自宅に留まっていたのであるから、裁判所書記官が一回の特別送達不奏功だけで、執行官による夜間送達等の方法もとることなく、漫然と郵便に付する送達を行ったことは、裁量権の濫用にわたるものとして違法である。
そうすると、控訴人に対しては第七回準備手続期日の呼出状の適式な送達がなかったことになるので、控訴人が右期日に不出頭であったからといって、いわゆる休止の扱いにすることはできず、したがって本件訴訟は未だ終了していないといわなければならない。よって口頭弁論期日の指定を求める。
理由
一 記録を調査すると、当審における本件訴訟の経過は次のとおりである。
1 本件は当審において直ちに準備手続に付され、昭和五九年四月二七日の第一回準備手続期日には控訴人は特別送達により適法な呼出しを受けたが欠席し、期日は延期された。
2 同年五月二五日の第二回期日の控訴人に対する呼出状の特別送達は、控訴人の肩書住所地に宛ててなされたが、控訴人不在で、郵便局における留置期間内にも受取りがなく、不送達に終わったので、裁判所書記官はあらためて郵便に付する送達を行った。控訴人は期日に出頭し、手続が進められた。
3 同年六月二五日の第三回期日には控訴人は欠席し(遅れて出頭したものと推認される。)、延期された。
4 同年七月一〇日の第四回期日は同年八月三一日に変更されたが、変更期日の呼出状の特別送達は、前同様控訴人不在で功を奏しなかった。
5 同年一〇月五日の第五回期日の呼出状についても同様であった。
6 同年一一月三〇日の第六回期日の呼出状については、被控訴代理人の申出により、執行官による夜間送達が試みられたが、このときはたまたま控訴人の住所を住居表示でなく土地の地番で表示したため尋ね当たらず、不送達となった。
7 昭和六〇年一月一八日の第七回期日の呼出状については、まず特別送達を試みた(このときはとくに日曜日の配達を希望する旨の付箋をつけた)が、前同様不送達になったので、裁判所書記官はあらためて昭和五九年一二月一七日に呼出状を控訴人の肩書住所地に宛て書留郵便に付して発送して、送達を了した(ただし、これもやはり控訴人不在で十日間の留置期間経過後に還付され、結局控訴人の手には渡っていない。)。右期日には控訴人は出頭せず、被控訴代理人は出頭したが陳述をしないで退廷し、爾後三か月間いずれの当事者からも期日指定の申立てはなかった。
二 訴訟当事者に対する期日の呼出状の送達は郵便による特別送達の方法をもってなされるのが通常であるが、名宛人や同居者の不在等のためこの方法によっては送達することができない場合には、裁判所書記官は書留郵便に付して発送することにより送達を実施することができる。本件においては、右の経過に見られるように、期日毎の呼出状が特別送達の方法によっては送達できないことが度重なり、一度試みた執行官送達も(宛先の表示の手ちがいもあって)成功せず、訴訟手続の進行に著しい支障が生じたため、裁判所書記官はやむをえず書留郵便に付する送達を行ったものであって、送達事務を管掌し訴訟手続の円滑な遂行に寄与することを職責とする裁判所書記官としては、きわめて正当な行為であり、非難を受ける筋合はない。
控訴人が、その主張するように、当時入院や通院あるいは転地療養などをしていたとしても、自らの控訴にかかる本件訴訟の推移について今少し真摯かつ誠実に対処する意思があったならば、昭和五九年八月以降数次にわたる特別送達がいずれも不奏功に終わり訴訟の進行を停滞させることはなかったはずであり、控訴人の主張は採用の限りでない。
三 そうすると、昭和六〇年一月一八日の第七回期日の呼出状の送達は、書留郵便の発送をもって(控訴人への到達のいかんにかかわらず)適式に完了したものであり、右期日から三か月後の同年四月一八日の経過をもって控訴取下げを擬制され、本件訴訟は終了したことになる。
よって、主文において訴訟終了の旨を宣言し、期日指定申立て以後に生じた訴訟費用は控訴人に負担させることとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西山俊彦 裁判官 藤井正雄 武藤冬士己)